着ぐるみの熱中症対策

既に着ぐるみを運用中の方も、これから着ぐるみを製作される方も、夏場の活動について様々な対策を練られていることかと思います。

以前、高温多湿の環境下での着ぐるみ操演中に起きた熱中症の事故がメディアで大きく報道されましたが、熱中症は人の生命に関わる誰にでも起こりうる病気です。
特に夏場の着ぐるみ着用の際には、熱中症にならないように万全の対策が必要になります。

着ぐるみの熱中症対策

熱中症の予防には下記のような対策が考えられます。

  • 屋外、炎天下での活動は出来る限り控えること
  • 10~20分程度の活動制限と休憩
  • こまめな水分の補給
  • 交代制にすること
  • クールベストなど冷却アイテムの装備
  • 着ぐるみ内部の空気を入れ替え出来る構造であること

熱中症は様々な環境要因や着用者の身体的な状況によって引き起こされますが、「気温」「湿度」「風の有無」が主な要因として挙げられます。
熱中症を予防しやすい着ぐるみの条件として、気温や湿度が上がりにくく、内部で気流を起こすことができること等を考えていくと、「エアー着ぐるみ」の構造が一番適していると言えます。

ウレタン着ぐるみとエアー着ぐるみの内部の温度・湿度差

実際にウレタン着ぐるみとエアー着ぐるみの2種類の着ぐるみを使い、空調の効いた屋内と炎天下の屋外の環境下でそれぞれ10分活動してみました。
検証したのは2019年8月4日の13時頃からで、東京都の最高気温は猛暑日に近い34.3℃でした。
さて、着ぐるみの内部ではどのくらい温度・湿度の差が生まれるのでしょうか。

●屋内での検証

まずは空調の効いた屋内で10分間活動しての検証です。
開始時の室温は27.2℃、湿度は45%です。

屋内は27.2℃、湿度45%


室内でエアー着ぐるみを着用したまま10分間、屈伸運動をします。

エアー着ぐるみで屋内を10分間活動

10分後の内部の気温は28.2℃(1℃上昇)、湿度は55%(10%上昇)となりました。

屋内で活動後のエアー着ぐるみ内部は28.2℃、湿度55%

少し息が上がる程度で、背面からブロアーファンの涼しい風が吹いてくるので暑さは感じません。


室内でウレタン着ぐるみを着用したまま10分間、屈伸運動をします。

ウレタン着ぐるみで屋内を10分間活動

10分後の内部の気温は29.7℃(2.5℃上昇)、湿度は99%を超えてしまい表示不能(55%以上の上昇)となりました。

屋内で活動後のウレタン着ぐるみ内部は29.7℃、湿度100%超え

室内は涼しいので楽勝かと思いきや、運動を始めると同時にどんどん湿度が上昇し汗が吹き出し止まりません。
終了後に撮影しようとした途端、汗が温度計にポタポタと垂れるほどの状況になっていました。

●屋外での検証

次は炎天下の屋外で10分間活動しての検証です。
開始時の気温は33.2℃、湿度は51%です。

屋外は33.2℃、湿度51%


屋外でエアー着ぐるみを着用したまま10分間、屈伸運動をします。

エアー着ぐるみで屋外を10分間活動

10分後の内部の気温は34.7℃(1.5℃上昇)、湿度は59%(8%上昇)となりました。

屋外で活動後のエアー着ぐるみ内部は34.7℃、湿度59%

炎天下でしたが、着ぐるみ自体が日光を遮ってくれるので10分程度では内部の温度に大きな変化はありませんでした。ブロアーファンから入ってくる風が室内のときよりも暖かい位の違いはありましたが、体感的にも暑苦しさや不快さはありませんでした。


屋外でウレタン着ぐるみを着用したまま10分間、屈伸運動をします。

ウレタン着ぐるみで屋外を10分間活動

10分後の内部の気温は35.2℃(2℃上昇)、湿度は99%(41%以上の上昇)を超えてしまい、屋内と同じく計測不可能になってしまいました。

屋外で活動後のウレタン着ぐるみ内部は35.2℃、湿度100%超え


結果、意外にも外気温と内部の温度差はそれほど大きくありませんでした。

湿度に関してはエアー着ぐるみが屋内屋外ともに60%以下なのに対して、ウレタン着ぐるみは99%以上の湿度となり、驚くほどの数値の違いが見られました。熱中症は直射日光のもとで起こりやすいと考えられがちですが、湿気の多い状況では室内でも熱中症になる可能性が十分にあります。

環境省のサイトによると、気温は同じでも、湿度が高い方が熱中症にかかりやすいという報告もあります。汗が蒸発しにくくなり、身体から空気中に熱を放出する能力が減少してしまうことが原因だそうです。
特に71%以上の湿度は熱中症の厳重警戒レベルと言われています。

夏場のウレタン着ぐるみは、温度が上がりやすい状況に加えて内部に湿気が籠もりやすいです。気温を配慮して活動時間帯を調整したり、冷却材などで体温を下げる努力をしたとしても、着ぐるみ内の湿度が改善できない場合は熱中症にかかるリスクが高まると考えられます。

ウレタン着ぐるみの空調/換気ファンは効果が薄い !?

ウレタン着ぐるみなどの型物の着ぐるみの場合は、頭部に換気ファンや小型扇風機を設置することで熱中症対策になると謳われていることが多く、テレビやネットなどの各メディアでも、着ぐるみ内のファンの重要性について語られています。

弊社でも、ウレタン着ぐるみの頭部に換気ファンを標準で搭載しています。
この換気ファンが少しずつ熱気を外部に逃がしてくれるので、着ぐるみ内の気温上昇を防ぐ役割を果たしています。

ただし、着ぐるみ頭部に搭載することを前提に考えると、あまり大きくて風力が強いファンを使用することは出来ません。大きく強力なるほど重くなり、着用者にかかる負担が増えるからです。
乾電池や出力電圧の低い小型バッテリーで稼働可能な小さなファンを使用しているため、当然着ぐるみ内部の空気を動かす程の役割を果たしません。「換気ファンや小型扇風機があるから大丈夫」とはならないのが現実なのです。

エアー着ぐるみの熱中症予防に対する優位性

★空気が入れ替わって涼しい
エアー着ぐるみは、外の空気を取り込み続けて着ぐるみを膨らませているので、常に内部の空気が入れ替わり続けています。着用者の身体に密着する部分も少ないので、厚手の生地やウレタンの芯が身体にまとわりつく不快さもありません。

例えて言うと、
・ウレタン着ぐるみは「密室の中で毛布をかぶって手持ちの小型扇風機を回している状態」
・エアー着ぐるみは「ドアや窓を開けた部屋の中で普通の扇風機を回している状態」
この位の体感的な違いがあると思います。

換気ファンとブロアファンの比較
上の画像(上)はエアー着ぐるみ用のブロアーファン、(下)はウレタン着ぐるみ用の換気ファン。サイズはもちろん、エアー着ぐるみ用のブロアーファンの方が風量が多く、風力も強いです。

★着ぐるみ内部で飲み物が飲める
エアー着ぐるみの内部は空間が広く、着用者が比較的自由に行動できます。

着ぐるみ内で水分補給
事前にペットボトルなどを持ち込んでポーチに入れておくと、好きなタイミングで水分補給を行うことが出来ます。
ウレタン着ぐるみの場合は頭部を外さないと水を飲めないことが多いため、これはエアー着ぐるみを使う上での大きなメリットです。

★脱ぎたくなったらすぐ脱げる
着用者が着ぐるみを脱ぎたくなったとき、通常の着ぐるみは、頭・体・手・足などパーツが複数あってなかなか脱ぎにくいのですが、エアー着ぐるみは背面のファスナーを開ければ瞬時に着ぐるみの外に出られます。

背面ファスナーで簡単に開閉

運用環境に依存するところも大きいので、エアー着ぐるみだからといって熱中症にならないというわけではありません。適切な管理をしていただきながら、エアー着ぐるみのメリットを活かすことで真夏の着ぐるみ活動を充実させていきましょう!

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工房責任者

衣笠プロフィール

衣笠 留美(キヌガサ ルミ)

キグルミックス工房責任者。素材の選定から納品に至るまでの実務全般・スケジュールの管理・お客様への窓口業務を行っています。
工房責任者であり技術職としての経験を活かし、明快でわかり易いご説明・ご提案を心掛けています。

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